今回はu-nextで鑑賞した、2024年のスペイン、アメリカ合作ヒューマンドラマ映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」の感想評価です。(※一部ネタバレを含みます)
安楽死を選ぼうとする女性と、彼女を支える友人の心情の激動を自然と共に壮大に映し出した衝撃作です。2024年の第81回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得しています。
安楽死や尊厳死に対しての考えが変わってしまうような、思考を揺さぶる一作。
そんな一作の良さと感想を率直に書いていきます。

あらすじ
記者のマーサ(ティルダ・スウィントン)は重い病に侵され、絶望の日々を送っていた。
ある日病院で長い間会っていなかった親友イングリッド(ジュリアン・ムーア)と再会し、マーサは自分の人生を語る。
治療を拒否するマーサは、イングリッドに自らの意志での安楽死を望み、イングリッドに協力を願う。その計画はマーサが借りた森に囲まれた小さな家で、隣に人の気配を感じながら死にたいというものだった。
ポイント①:マーサという人物
マーサは知的で芯の強い女性。戦争記者として前線で書くような男性社会の中で人生を送ってきたとイングリッドに語る。
そして、娘との誤解や、いい母ではなかったこと、元夫が戦争の後遺症で病み別れたことも明かす。
(短い過去映像が差し込まれ、元夫が「人が助けを呼んでいる」と誰もいない火が燃え盛る家へ入っていくシーンが寓話みたいで印象的です)
病に蝕まれていく中で、治療の副作用である記憶障害もあり、自分という存在が少しずつ失われていく恐怖を、マーサは言葉よりもその佇まいで雄弁に語る。
マーサ役のティルダ・スウィントンは、視線の一つひとつにマーサの知性と誇り、そしてそれが崩れていく脆さをにじませる。彼女の演技は、静かに抑制されながら、病による内面の激動の戦いを表現する。
その死という決断の奥には、最後まで手放さなかった誇りと、燃え尽きることのない人生の意味が、静かに光を放つ。
ポイント②:森に囲まれた家で死を選ぶということ
マーサは愛着のある物に囲まれた自宅ではなく、知らないものばかりの借りた家で死にたいとイングリッドに伝える。
マーサの家は物が乱雑に溢れていて、思い出に囲まれている。その中で死にたくないというのもなんか頷ける。(思い出が汚れそうということで)
自然に囲まれ、浄化されていくような地でマーサは最後のタイミングを待っている。
ポイント③:何故マーサはイングリッドに隣の部屋にいて欲しかったのか?
小さな森の家でイングリッドはマーサの部屋の隣(厳密には近くの部屋)で数日を過ごす。
では、何故マーサは友人に死ぬ間際隣にいて欲しかったのか?という疑問ですね。
作中でもマーサが言いますが、記者として「移動する家族」として生きてきたので、最後もそうしたいと。
また人間社会の一員として、感情を繋いできた記者として、社会の中で人生を終えていきたかったのではと個人的に感じました。
総論:ドアが閉まっていたら死んでると思って・・・
本作「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」は誇りを持ったままこの世を去りたいというマーサの生き様と、イングリッドの身近な死に対する気持ちを取らえた一作。
歳をとっても仕事と化粧がバッチリで綺麗さが輝くイングリッドと、病院で横になって化粧がなく、生命力を感じないが気高さがあるマーサの対照的なところが印象的。
「ドアがしまっていたら死んでいると思って」というマーサの言葉が覚悟を滲ませている。マーサとイングリッドの丁度いい距離感と、丁寧な会話が心地いい。
正直とても重い映画ですが、美術的にも、死の淵に立つ人物と、それを見守る友人の内面を繊細に描いたものとしても高水準のヒューマンドラマです。
マーサ、イングリッドの根底の繋がりと、その愛情が温かい。そして、誇り、尊厳を持って自分の道を選択する人間の物語。
「雪がマーサや生きているもの、森のすべての存在に等しく落ちる」という、イングリッドの最後の言葉と雪で、すべてが浄化されたようで体が震える。
作品情報
2024年/107分/スペイン、アメリカ
監督 ペドロ・アルモドバル
出演 ティルダ・スウィントン、ジュリアン・ムーア、ジョン・タトゥーロなど
