1966年のフランスのサスペンス映画「創造物 4kレストア版」のポイントと感想・評価です。(※一部ネタバレ含みます)
特殊過ぎる映画。謎のゲーム開催・・・
アニエス・ヴァルダ監督による、あまりに異質で、あまりに静謐な一作。
それはまるで、心の底の感情を搔き立てるような、不穏な悪夢。
あらすじ
作家のエドガーと妻・ミレーヌは、ある日突然、交通事故に巻き込まれる。
二人は命は助かったが、ミレーヌは声を失う。
エドガーは彼女を支え、見知らぬ土地でふたり静かに暮らす。
だが、ある日、街の人々の感情が突然豹変する瞬間を目にし、違和感が胸をよぎる。
それは、ほんの些細なきっかけで、怒りや狂気が心に火をつける、奇妙な現象だった。
ポイント① 不気味な映像表現
この映画の多くはモノクロで描かれ、音楽がまるで感情そのもののように観る者の神経を撫でてくる。
日常の風景――街での買い物すら、なぜか不安で、なぜか怖い。
そして、人の心が乱れた瞬間、画面に赤のフィルターが薄くかかる。
血のような、感情の波紋のようなその赤が、胸をざわつかせる。
これは監督の感情を色として表現するような実験ではないかと感じる。そのためにモノクロ映画としているのではと。
ポイント② 謎のゲーム開催
どうやら、人々の感情は一時的に大きなボタンみたいなもので操られるようだった。
エドガーが原因である、塔に住む不気味な男と謎のゲームで戦う。
ルールは人々をサイコロで進め、人を出合わせるゲームでカップルが一組でも残っていればエドガーの勝ちというルール。
だが、塔の男は罠を仕掛ける。
怒りの感情が一分間だけ人々を支配し、愛は崩れ、言葉は凶器になる。
それに抗うため、エドガーには三度だけ「幸福」の力が与えられる。
怪物に人生を弄ばれているような、そんな悪寒がずっと吹きかけてくる。
──これは、恐怖版・人生ゲームなのか?感情の構造を暴く哲学的な寓話なのか。
現代から見てもかなり尖った作品であることは間違いない。
総論:不可解で感情に刺さる作品
『創造物』。
不気味で、不可解で、だからこそ、記憶にへばりつき忘れられない映画だと思う。
かなり詩的で芸術的なアニエス・ヴァルダ監督の中でも一層異色な作品。
見終えたあとも、心の中にモヤモヤが残り続ける。
本当の感情とはなんだと自らの心が問いかけてくるような気持ち悪さが残る。
万人におすすめはできない。
だが、映画という表現に「不安」や「詩情」を求める者には、確かに刺さる作品。
そして、何より──
カトリーヌ・ドヌーヴの、言葉を持たない演技は、
沈黙の中で、何より雄弁で美しく物語を語る。
作品情報
監督 アニエス・ヴァルダ |制作国 フランス
公開 1966/94分
出演 ミシェル・ピッコリ、カトリーヌ・ドヌーヴなど